論文から考える。感染症予防に必要なのは?
2026年6月9日

感染症予防は、ワクチンや薬、と多くの人が思いつくでしょう。
確かに、それらは重要な対策として広く使われていますから、正解なのです。
しかし、感染症とはそもそも 免疫という身体の仕組みと常に関わる現象なのです。
実は、感染症が成立する過程は、ウイルスや細菌の侵入だけでなく、免疫側の状態がどのように反応するかの結果でもあります。
その前に、免疫の強さはどこで決まるのかというと、日々の生活にある、噛むという行為そのものに深く関連しているのです。
免疫と慢性炎症の関係

免疫とは抗体を持つことや、細菌を殺す力を持つことではありません。
免疫は常に身体のあちこちで反応し、炎症を起こし、そして炎症を終わらせるという 動的なバランスの積み重ねです。
そのため、慢性的な炎症が続くと、免疫は無意識のうちに負担を抱え続けます。
慢性炎症が全身の免疫状態を乱すことは、生理学・免疫学の多くの論文で示されています。
例えば、歯周病など口腔内の慢性炎症は、局所だけでなく広い範囲で免疫のパターンを変えることがレビューされています。
つまり、免疫が慢性的に刺激される状態では、感染した場合の初動が遅れたり、適切に収束しにくくなったりするのです。
これが、免疫の消耗になります。
歯周病の全身への影響

口の中には大量の細菌が存在します。
健康な状態であれば問題なく、バランスが保たれていますが、歯周病になると、病原性を持った細菌(例:Porphyromonas gingivalis)が増加して、炎症が慢性化していきます。
ちなみに、この炎症は単に歯ぐきだけを脅かすものではありません。
研究では、歯周病原細菌が局所の免疫応答を持続的に刺激して、炎症性物質(サイトカイン)を血流に供給することで、全身の免疫反応に影響を与える可能性が示されています。
また それだけでなく、歯周病とさまざまな慢性疾患(心血管疾患、呼吸器疾患、代謝異常など)の関連を示すレビューも報告されています。
これは、歯周病が全身性の炎症状態を誘発して、他の疾患のリスクを高める可能性を示唆しているのです
慢性炎症は免疫の余力を奪う

歯周病を放置すると、炎症性サイトカインが持続的に産生され、免疫は慢性的な戦闘モードに置かれてしまいます。
この状態が続くと、免疫は余力を失い、感染症などの新たな脅威に対して効果的に反応できなくなるリスクが高まるのです。
歯周病は感染防御の最前線を乱す

口腔は、外界と接する最初の免疫防御ラインになります。
単純に言えば、「入口」が汚れている状態は、免疫全体の負担を増やすことになるのです。
口腔内炎症がある状態でウイルスや細菌が侵入すると、免疫はすでに負担を抱えているため、初期の反応が適切に起きにくい可能性がでてきます。
このことは、感染症が重症化しやすくなる条件にもなり得るのです。
実は、口腔内の慢性炎症が全身に影響するメカニズムはまだ完全には解明されていないのですが、「局所炎症 → 免疫刺激 → 全身反応」という流れは多くの研究が支持しています。
口腔と腸・免疫の関連

近年、免疫に関連する新しい概念として、オーラル-ガット軸(口腔–腸連関)が注目されています。
これは、口腔内の微生物と炎症が腸内環境に影響して、そこから全身免疫や慢性炎症に結び付く可能性を示すものになります。
腸は免疫の重要な中枢です。
口腔で噛んだ食物が腸に到達し、そこでさらに免疫教育が続くわけですが、口腔環境が乱れていると、その連関を通じて免疫全体に影響する可能性が指摘されています。
噛むことが免疫と健康に及ぼす影響

意外に思われるかもしれませんが、噛むという行為自体が身体の免疫環境に寄与します。
咀嚼は単に食べ物を物理的に粉砕するだけでなく、唾液の分泌を促して、消化の準備や自律神経のバランスにも関わるのです。
咀嚼不足の状態では、消化が遅くなって、消化器官への負担が増すことで、腸管免疫系への刺激が過剰になりやすくなります。
免疫の多くは腸管関連リンパ組織(GALT)で教育されるため、消化と免疫は切り離せない関係にあります。
したがって、咀嚼によって食物が細かく粉砕され、消化の負担が減ることは、免疫へのメリットにもつながることになります。
まとめとして 感染症予防の基本とは?

感染症予防は、ワクチンや薬といった対策だけではなく、免疫という身体の仕組みの状態を整えることこそが、感染症に立ち向かう前提条件になります。
そのために、口腔内炎症を抑え、歯周病原細菌のコントロールを行うことや、免疫が無駄に消耗しないように免疫環境を健全に保つこと、食物をよく噛んで、消化と免疫の負担を軽減することは、日常の感染症予防として 非常に有効な基盤になるのです。
これは、日々の生活で実践できる行動でもあります。
ついつい忘れがちになりますが、感染症予防はワクチンや、薬など、自分の身体に何を足すかではなく、免疫が働きやすい身体条件を整えることが、本質的に重要なのだと考えています。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
引用論文
- 歯周炎は歯周病原細菌と宿主の免疫反応によって引き起こされる感染症であり、炎症性物質や細菌成分が全身に広がる可能性が示されている研究(Jpn. J. Periodontology)。
- 歯周病と様々な全身性疾患(心血管、呼吸器、内分泌疾患等)との関連を包括的に論じたレビュー(Inflammation & Allergy – Drug Targets)。
- 歯周病が誘発する炎症が自然免疫系を活性化し、慢性炎症を助長する可能性を示す研究(ScienceDirect)。
- 歯周病が腸内細菌叢や免疫系に影響しうるという疫学的観点の報告(UMIN 等)。
- 免疫と歯周病の関係、炎症と免疫応答を紹介する基礎的レビュー(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology)。
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
▶︎Dr. RyoのYouTubeはこちら
▶︎Dr. Ryoのプロフィール


