歯科医の子どもは歯周病にならないのか
2026年8月11日

まず結論をいいます
歯科医の子どもでも歯周病にはなります
歯科医の子どもなら歯周病とは無縁なのではないか。
この問いに対して、科学的に正確な答えはノーが正解です。
残念ながら、歯周病は、特定の職業によって回避できる疾患ではありません。
歯周病は、プラーク中の細菌、宿主の免疫応答、遺伝的感受性、ホルモン変動、生活習慣など、複数の因子が絡み合って進行します。そのため、親が歯科医であっても、これらの生物学的要素が消えるわけではありません。
若年者に多いのは歯周炎より歯肉炎

国内外の疫学研究、たとえば東京医科歯科大学(現・東京科学大学)や大阪大学の調査では、思春期における歯肉炎の有病率は決して低くありません。
重要なのは、若年者で多いのは重度の歯周炎ではなく、可逆的な歯肉炎であるという点です。歯肉炎は、主にプラークコントロールの不良によって生じますが、適切な清掃で改善可能なのです。
つまり、歯科医の子どもであっても歯周病の初期段階である歯肉炎は起こり得ます。しかし、それが深部組織の破壊へ進行するかどうかは、また別の話になります。
歯科医家庭が有利な理由

ハーバード公衆衛生大学院のフィッシャー=オーエンスらが提唱したモデルでは、子どもの口腔健康は家庭環境の影響を強く受けるとされています。
歯科医家庭では、出血の意味を理解しており、歯間清掃の重要性を早期から教えていて、さらに定期受診が習慣化している、といった環境が整いやすい傾向があります。
この違いは小さく見えて、時間の経過とともに大きな差になります。
炎症が軽いうちに対処できれば、慢性化や重症化のリスクは下がるからです。
したがって、歯周病にならないのではなく、歯周病を進行させにくい環境にあると言うほうが正しい表現となります。
避けられない個体差

歯周病には遺伝的感受性が関与するといわれています。
ミシガン大学やUCLAの研究では、インターロイキン1遺伝子多型などが歯周炎の重症度に影響する可能性が示されています。
また、若年性侵襲性歯周炎のように、清掃状態が比較的良好でも急速に進行するタイプが存在します。
こうしたケースでは、家庭環境だけでは完全に防げません。
さらに、思春期のホルモン変動も歯肉炎を悪化させる要因となります。
ロンドン大学キングス・カレッジなどの研究でも、性ホルモンと歯肉炎症の関連が報告されています。
つまり、生物学的要因までは、職業ではコントロールできないわけです。
疫学研究が示す健康文化の影響

愛媛大学や東北大学の公衆衛生研究では、親の教育水準や健康行動が高いほど、子どもの歯周状態が良好である傾向が報告されています。
ここで重要なのは、歯科医だからではなく、健康行動を日常化しやすい家庭文化があるかどうかなのです。
歯科医の家庭は、歯周病の初期サインを見逃しにくい環境にいます。
そのため、出血や腫脹を軽視せず、早期に対処するのです。その初期の反応速度が、長期的な組織破壊を防ぐ方向に大きく働くわけです。
総合的な結論

研究を総合すると、歯科医の子どもでも歯周病にはなります。
しかし、重症化しにくい可能性は高いです。
ただし、遺伝的高感受性やホルモン要因は例外です。
ただ、歯周病はなるか、ならないか、の病気ではありません。
どこで気づき、どこで止められるかの病気なのです。
歯科医の子どもが有利だとすれば、それは肩書きの力ではなく、日々の行動が積み重なりやすい環境にあることが大きいのです。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Fisher-Owens SA, et al. Influences on children’s oral health: a conceptual model. Harvard School of Public Health. Pediatrics.
- Reisine S, Psoter W. Socioeconomic status and periodontal disease. UCLA School of Dentistry. Journal of Dental Research.
- Kornman KS, et al. The interleukin-1 genotype as a severity factor in adult periodontal disease. University of Michigan. Journal of Clinical Periodontology.
- 東京医科歯科大学(東京科学大学)歯学部疫学研究グループ.思春期における歯肉炎有病率に関する研究.
- 愛媛大学 公衆衛生学講座.保護者の社会経済的要因と子どもの口腔健康状態の関連.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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