認知症リスクと歯のかみ合わせ
2025年9月5日
常識的にみて、無関係に思えるかもしれませんが、歯を失ったり、噛みにくくなったりすると、実は脳の健康にまで影響してきます。つまり、認知症リスクが高くなるとお考えください。
日常の診療していて、私たち歯科医師として感じるのは、噛むことの大切さを患者さんがご存知ないケースが多い、という体感です。通常の食事をする際、不自由なければ問題ないと思いがちですが、最新の研究は「歯の喪失や咀嚼機能の低下が、認知症リスクを確実に押し上げる」ことがわかってきています。
今回は、論文データや診療の現場の経験から、かみ合わせのズレや、歯の喪失が、なぜ脳に影響するのか、そして 歯科領域でできることは何があるのかをお話ししていきます。
歯が無くなると、なぜ、認知症リスクが上がるのか?
疫学的研究では、歯を失った本数が多ければ多いほど、認知機能低下や認知症リスクは着実に上昇してくることがわかっています。たとえば2021年の大規模メタ解析では、歯を1本失うごとに認知機能低下リスクが約1.4%増加、認知症リスクが約1.1%増加しました。(Qiら, JAMDA, 2021)。さらに、無歯顎になると認知症リスクは1.40倍に跳ね上がることが分かっています。これらの結果は、認知症と噛み合わせが深い関係があることを証明しているのです。
この研究では、義歯やインプラントでしっかり噛めている人は、認知症リスクがほとんど見られないことも示されています。つまりは、「歯を失った=終わり」ではなく、問題があってもキチンと治療して噛める状態に回復して維持できるかどうかが決定的に重要であると言えるのです。
治療の現場でも、入れ歯(義歯)を正しく使っている方は表情が生き生きしていて、アクティブな印象があります。
しかし、面倒だからと入れ歯(義歯)を外したままにして、使わないでいると、食が細り、話しづらくなることで会話も減り、結果的に脳への刺激が乏しくなります。さらに、これが長期期間経過することで、認知機能が大きく低下してしまうのです。
咀嚼は脳に栄養を送ること
咀嚼は食べるための単なる動作だけではありません。噛むときに歯根や歯周組織から三叉神経を通じて大量の感覚信号が脳に送られおり、特に記憶を司る海馬にその情報が届くことで、神経細胞を活性化させるのです。
2023年の系統的レビューでは、咀嚼機能が低下することで、注意力や記憶などの認知機能が下がることがわかってきました。それに対して、しっかり噛める人では認知機能が維持されやすいことも同時に確認たのです。(Yamamotoら, Journal of Oral Biosciences, 2023)。
若年層を対象にした実験でも面白い結果が出ています。ガムを噛んだ後に認知能力が向上したというデータです。
このことは、咀嚼自体が脳を活性化させることを裏づけていらと言えます。
補足として注意が必要なのが、やわらかい食物ばかりを食べる現代的な生活です。高齢者、若い方、年齢問わず言えることですが、ハンバーグなどのやわらかい食べ物ばかりに慣れてしまうと、固いものを食べる時と比べて自然と咀嚼回数が減り、脳への刺激が不足傾向に陥ります。また、片側ばかりで噛む噛みクセも脳に偏った信号しか届かなくなるだけでなく、脳血流量の偏りもみられて、長期的には認知症リスクが高くなる可能性が出てくると思われます。
原因① かみ合わせのズレは、脳にはストレス
噛み合わせがズレると、脳にあらわれる影響を検証しています。動物実験では、かみ合わせを人工的に不安定な状態にすると、ストレスホルモンであるグルココルチコイドが過剰に分泌されて働き、海馬でアンツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの沈着が増加することが確認されています(Iinumaら, NeuroMolecular Medicine, 2011)。
これらのことから、かみ合わせのズレは食べにくさや、顎の痛み生み出すだけではなく、脳に慢性的なストレスを与えて、アルツハイマー病のリスクを高める可能性が高いと言えるのです。この実験には続きがあり、かみ合わせのズレを改善させるとこれらの異常や、不具合が部分的に回復するという報告もでています。
原因② 噛み合わせのズレは、海馬の形に影響する
噛み合わせがズレた状態を放置すると、記憶を司る海馬そのものの構造や機能が変化することも最近では分かってきました。マウスの動物実験で、マウスの奥歯を抜いたり、噛みにくい食事を与えたりすると、海馬の神経新生が抑えられ、神経細胞の数が減少しました。その結果、空間記憶テストでは、実験前のマウスと比べて実験開始後のマウスでは、成績が大きく落ちました。(Gryczkaら, PLOS ONE, 2020)。
平たくいうのであれば、よく噛める状態をキープすることは、海馬にとっても良い環境であるとともに、記憶にもよい影響を与えるリハビリになるとも言えるのです。
歯科でできる認知症予防
歯科での積極的なアプローチは3つあります。
- 現状の審査をします。
残存歯が何本か?・補綴物に問題ないか?咀嚼筋の状態はどうか?、かみ合わせのズレはどの程度あるか?、食習慣は偏ってないか? - 噛める環境の再構築をします。
義歯やインプラント、ブリッジを用いて奥歯を治療して噛み合わせを回復。かみ合わせのズレの微調整、必要ならスプリントを用いた顎関節の負担の軽減。 - 在宅での噛む練習、つまり、リハビリ
繊維質の多い食材を好んで食べる、左右交互に噛む習慣をつける。咀嚼トレーニングをしてみる。
入れ歯(義歯)を正しく使うことで認知症リスクを抑えられるという揺るぎないデータに基づいて治療プランを構築しています。
年齢のせい、にしてはいけない。
歳だから仕方ない、と思ってしますのは、仕方がないかもしれません。なぜなら、子供の時からテレビ、新聞で散々、そのセリフを聞かされてきたため、すこし暗示にかかっているのだと思います。安心してください。諦める必要はまったくありません。歯を失っても、入れ歯(義歯)やブリッジ、インプラントで噛み合わせを安定されて咀嚼を取り戻せば、認知症リスクは確実に下げられるのです。結局、年齢ではなく噛めていないことが原因で、噛めることが認知症予防になるのです。
気をつけるべき、これらのサイン
- 片側だけで噛んでいる
- 顎が疲れてやすい
- 柔らかい食べ物ばかり食べるようになぅた
- 入れ歯(義歯)が合わないからはずしている時間が長い
- 慢性的な首や、肩こりがある
- 睡眠の質が下がって、深く眠れない
こうしたサインがある方は、早めに歯科を受診して相談してください。
最後に
認知症は色々な要因が重なることで引き起こされる病気ですが、よく噛める噛み合わせをキープすることは、非常に有効な予防策になりえるのです。歯科でのかみ合わせのズレの調整やブリッジ、入れ歯(義歯).インプラントによる噛み合わせの回復、日々のバランス良く噛むという正しい生活習慣が、未来の脳を病か守ります。
小さな違和感があったら、気のせいで終わらさずに、20代の健康的であった身体の状態に回復させる努力をしてみてください。その先に、健康的な未来が待っています。今から行動を起こすことが大切です。不調が気になる方は、プレミアムコンサルテーションから初めてください。