免疫力の低下による 口臭と口臭グッズの流行
2026年7月31日
序章 ― 感染予防の影で起きた変化

新型コロナウイルス感染症の流行は、人類にかつてないほどの緊張を強いました。
マスク着用、消毒、ソーシャルディスタンス、いわゆる3密の回避などが連日のように強調されて、社会全体が感染防御に傾倒せざるを得ない状態になりました。
その一方で、ほとんど注目されなかったのが、免疫力の低下が静かに進行していたという事実です。
免疫の衰えや、低下は全身の健康を揺るがすだけでなく、口腔環境にも大きな影響を及ぼしました。
その代表的なのが口臭の悪化です。コロナ禍では多くの人がマスクの中で自分の息のにおいを意識して、口臭対策グッズが空前の売れ行きでした。
不思議に感じる方もいらっしゃると思いますが、実は、これらは相関参加があるのです。。この背景を理解するには、免疫と口腔の密接な関係を振り返る必要があります。
免疫と口腔の生理学的つながり

免疫は体を病原体から守る防御システムです。また、それと同時に、口腔内の恒常性を保つ要でもあります。
唾液は免疫の一部として機能し、免疫グロブリンA(IgA)やラクトフェリン、リゾチームなど抗菌因子を豊富に含んでいます。
これらは歯周病菌や嫌気性菌の増殖を抑制して、口臭の原因となる揮発性硫黄化合物(VSC)の産生を防いでくれています。(Humphrey & Williamson, J Prosthet Dent,2001)。
また、白血球は口腔内で細菌の侵入を監視しており、免疫系のバランスが崩れると細菌叢が乱れて、においの強い代謝産物が発生します。
したがって、免疫力が落ちると口臭は必然的に強まるのです。
コロナ禍の免疫低下のメカニズム

では、なぜコロナ禍で免疫力が低下したのでしょうか。
第一に、社会的交流の減少が考えられます。
孤独や社会的孤立は慢性的なストレスをもたらして、ストレスホルモンであるコルチゾールが持続的に分泌されます。
コルチゾールはリンパ球やNK細胞の働きを抑制して、免疫能を低下させることが知られています(Glaser & Kiecolt-Glaser, Nat Rev Immunol, 2005)。
第二に、生活習慣の乱れがあります。在宅勤務の普及や外出制限により運動不足とななって、睡眠のリズムも崩れました。
免疫系は睡眠と密接に関連しており、睡眠不足は抗体応答や免疫記憶を損なうことが報告されています(Besedovsky et al., Physiol Rev, 2019)。
第三に、マスクの長時間着用による口腔乾燥があります。乾燥は唾液の自浄作用を妨いで、嫌気性菌に有利な環境を作り出します。
東京医科歯科大学の研究でも、口腔乾燥が強い人ほど口臭強度が高いことが示されています(Yaegaki & Coil, J Can Dent Assoc, 2000)。
マスクが口臭を見える化にした

マスクは感染防御のために不可欠とされましたが、口臭を強くして、口臭を意識させる結果となりました。
息がマスク内にこもることで、従来なら気づかなかった自分自身のにおいを直接感じるようになったからです。
免疫力の低下と乾燥によって口臭が実際に悪化していたこともあり、口臭が強くなった、という自覚を持つ人が増加したのです。
2012年のイタリアで行われた疫学調査(Settineri et al., Int JDent Hyg, )では、社会的不安やストレスが強い人ほど口臭を訴える頻度が高いことが報告されています。
コロナ禍ではまさにこの条件が重なって、心理的にも口臭がクローズアップされたのです。
口臭グッズ市場の拡大

こうした背景があり、口臭対策市場は大きく成長しました。
マウスウォッシュ、ブレスケアタブレット、口臭予防スプレー、さらには飲むデオドラントと称されるサプリメントまで、多彩な商品が販売されて、売り上げを劇的に伸ばしたのです。
日本国内でも2020年から2022年にかけて口臭関連商品の市場規模が前年比で大幅に拡大したことが複数の市場調査でも報告されています。
しかしここで注目すべきは、この消費行動は、単なるエチケットも問題ではなく、社会全体で国民全体レベルで免疫が落ちて、口臭が強まったことを反映した結果ということなのです。
表面的対処と根本的解決

口臭グッズは一時的なにおいの緩和は貢献しますが、根本的な解決にはなりません。
実際の問題は免疫力の低下であり、それを改善しなければ口臭は繰り返されるのです。
免疫を高めるには、十分な睡眠、バランスのとれた栄養、適度な運動、そしてストレスのコントロールが欠かせません(Nieman & Wentz, J Sport Health Sci, 2019)。
コロナ禍では、感染防御ばかりが強調されて、こうした免疫を高める生活習慣がほとんど議論されなかったことが問題を大きくしました。
そのため、人々は本質的な改善ではなく、表面的な対処に頼るしかなくなったのです。
補足として、免疫を高めることを提案していた方も一部にはいましたが、大多数の人は耳を傾けない状態でもあったのです。
精神的要因と口臭

免疫力低下と口臭悪化は、精神的ダメージとも密接に結びつきます。
口臭が強いと、他人にどう思われているか、という不安が強まります。その不安や孤独感がさらなるストレスを生んで、免疫を低下させるという悪循環が形成されるのです(Malkiewicz et al., J Clin Med, 2020)。
つまり、口臭グッズが売れた理由として、免疫学的要因だけでなく、心理社会的な要因が大きく関わっていたと考えられます。
結論として

免疫力の低下が口臭を悪化させ、その結果、口臭グッズ市場が拡大したのは、偶然ではなく必然でした。
免疫が落ちれば口腔環境は崩れて、口臭は強まり、マスクによってそれが自覚され、不安が消費を刺激するわけです。
この連鎖は、私たちが健康をどうとらえているかを象徴的に示していると思われます。
今後必要なのは、口臭を一時的に覆い隠すグッズへの依存ではなく、免疫という人間本来の防御システムを健全に保つ生活習慣や社会環境を整えることなのです。
コロナ禍の、この教訓を忘れないことが、次の時代の健康づくりに不可欠だと私は考えています。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Humphrey SP, Williamson RT. A review of saliva: normal composition, flow, and function. J Prosthet Dent. 2001;85(2):162–169.
- Glaser R, Kiecolt-Glaser JK. Stress-induced immune dysfunction: implications for health. Nat Rev Immunol. 2005;5(3):243–251.
- Besedovsky L, Lange T, Born J. Sleep and immune function. Physiol Rev.2019;99(3):1325–1380.
- Yaegaki K, Coil JM. Examination, classification, and treatment of halitosis: clinical perspectives. J Can Dent Assoc. 2000;66(5):257–261.
- Settineri S, et al. Self-reported halitosis and emotional state: a study on the role of psychosocial factors. Int J Dent Hyg. 2012;10(1):41–45.
- Nieman DC, Wentz LM. The compelling link between physical activity andthe body’s defense system. J Sport Health Sci. 2019;8(3):201–217.
- Malkiewicz K, et al. Halitosis and its association with social anxietydisorder and stress-related symptoms. J Clin Med. 2020;9(6):1774.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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