なぜ、オールオン4は無理があるのか?
2026年5月26日

28本あった歯を、上下8本で支える。
この話を聞いて、多くの人は直感的にこう感じると思います。
それは、少し無理があるでしょう。
この感覚は、決して間違っていないのです。
オールオン4の問題は、生体力学という力の扱い方の問題にことあるのです。
ただし、生体力学の問題は難しく、すぐに痛みとして現れずに、見えないところで、静かに進行するからです。
歯は硬い素材ではありません

私たちはつい、歯を硬いものと考えますが、本当は、歯はとてもしなやかな構造をしているのです。
実は、天然歯には歯根膜というクッションのような組織があり、その歯根膜は、噛むたびにほんのわずかに伸び縮みし、加わる力を和らげて、1箇所に集中しないように分散してくれているのです。
この効果は絶大で、強く噛んでも、多少噛みズレても、長年使い続けても歯と骨はすぐには壊れにくいのです。
つまり天然歯は、少し動くことで、実は守られている構造といえるのです。
インプラントは不動

それにくらべて、インプラントは骨と直接結合します。
これはオッセオインテグレーションと呼ばれ、インプラント治療を可能にした重要な発見ともいえます。
ただし、この構造には残念ながら、決定的な問題があります。
歯根膜がない。それにつきます。
動かない。しならない。力を逃がせない。
インプラントは非常に強固ですが、その分、その力を受け止めて緩和する余裕がない。
だからこそインプラント治療では、何本で支えるか、どこに配置するか、力がどう流れるか、が、とても重要になるわけです。
28本を8本で支える、という設計

オールオン4は、片顎4本、上下で8本のインプラントで全てのかむ力を支えます。
ここで考えてみていただきたいのですが、もともと28本の歯が分担していた仕事を、動かない8本に集中的に任せるのです。
しかも、奥歯の強い力まで含めて。
どこに、どれだけの負担がかかるかという話をしていきます。
てこの力
噛む力は、奥歯ほど強くなります。
オールオン4では、奥歯部分が張り出し構造になりやすいのです。
これは、ブランコを思い浮かべると分かりやすいのですが、支点から離れたところに体重をかけるほど、支点には大きな負担がかかるようになります。
てこの力は、インプラント、それを止めるネジ、本体のフレーム、その周囲の骨、すべてに、じわじわと効いてくることが予想されるのです。
ただ、すぐ壊れるわけではありませんが、疲労は確実に蓄積していきます。
なぜ患者さんは問題ないと感じるの?

オールオン4が広く普及した理由の一つは、治療直後の満足度が高いにあります。
すぐ噛める、見た目が一気に良くなる、長年の悩みが解消される。
そうなると、患者さんはこう感じると思います。ちゃんと噛めている、何も問題はない。
でも実際には、骨の中での小さなダメージ、装置への疲労、噛み合わせのわずかなズレなどが静かに進んでいることがあるのです。
残念ながら、その場合でも痛みはありませんし、音もしませんから、気づけないのです。
そして、おかしいと感じた時には、もう元の状態に戻すのが難しい段階に入っていることもあるのです。
なぜ、ここまで普及したのか?
説明が分かりやすい。
4本で全部噛めますし、骨移植はいりませんし、短期間で終わります。
数字で示しやすいし、本数が少なく、治療がパターン化しやすい。
さらに、さらに、インプラントが残っているかで成功率を語れるわけですから、マーケティングと非常に相性が良い治療ということになります。
ただ一方で、骨の中で起きている力学的な変化歯、つまり、10年、20年後の負担は、説明しにくく、数字にしにくいという特性をもっています。
結果として、今うまくいっている側面だけが強調されやすくなったのだと思います。
生体力学が示す、シンプルな答え

生体力学の答えは、実はとてもシンプルなものです。
支点を増やし、支点を広げて、てこを短くして、力を分散させる。
これは橋でも、建物でも、人の体でも同じなわけです。
インプラントの本数を増やすことは、やりすぎではなく、壊れにくくするための正しい設計なのです。
では、オールオン4は悪なのか?
それは、言い過ぎです。
条件が合えば、オールオン4が大きな助けになる人もいると思います。
ただし問題は、誰にでも適応できる万能治療のように扱われているのは、違います。
本当に大切なのは、今、噛めているか、ではなく、10年後も、骨と身体が守られているかになると私は考えています。
最後に

オールオン4が無理をしているのは、構造です。
そしてその無理は、痛みもなく、静かに積み重なってきます。
だからこそ、この構造と特徴を早い段階で知っておくことに意味があります。
噛めること。美しいこと。それと同時に、長く守れること。
そのような様々な角度からの視点を持つことが、治療を選ぶ側にも、提供するドクター側にも、求められているのだと考えています。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Brånemark P-I. et al. オッセオインテグレーションに関する基礎研究(ヨーテボリ大学)
- International Journal of Implant Dentistry(Springer Nature):オールオン4の長期予後研究
- Frontiers in Bioengineering and Biotechnology:All-on-4 / All-on-5 生体力学比較(有限要素解析)
- Dental Materials Journal(日本歯科材料学会):歯根膜の力学特性に関する研究
- International Journal of Molecular Sciences(MDPI):歯根膜欠如が生体力学に与える影響
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
▶︎Dr. RyoのYouTubeはこちら
▶︎Dr. Ryoのプロフィール


