歯科医師の中にはオールオン4を推奨する人がいます。どれが正解?
2026年5月29日

歯科医師によって意見が違うことはよくあることです。
ある先生はオールオン4は良い治療と言い、別の先生は無理があると言う。
患者さんからすれば、いったい、どれが正解なのか?不安になると思います。
この疑問がでるのはは、とても自然であり、この問いそのものが、オールオン4という治療の本質をよく表しているといえるのです。
結論から言うと、一つの正解は存在しないのです。
ただ、間違えやすい考え方と、見落としてはいけない視点は、はっきり存在しますから、説明していきます。
なぜ歯科医師の意見は分かれるのか

まず、歯科医師の意見が分かれる理由は大きく三つあります。
一つ目は、見ている時間軸が違う。
二つ目は、成功の定義が違う。
三つ目は、何を最優先に考えているかが違う。
成功の定義が違うと、評価は真逆に
オールオン4を推奨する歯科医師が、よく話すことが高い成功率や長期生存率だと思います。
実際、世界的に見ても、スウェーデンのヨーテボリ大学や、ポルトガル・リスボン大や、ハーバード大学関連機関などから、オールオン4の良好な生存率を示す論文は多数発表されていますから、無理もありません。
たとえば、インプラントを10年以上の追跡したものではインプラントが脱落していない。
という意味では、高い数字が報告されています。
この視点で見るなら、オールオン4は十分に成功している治療と言えます。
しかし、ここに落とし穴が隠れているのです。
生体力学は脱落する前に問題を起こす

生体力学の問題は、インプラントが抜け落ちる前に、まず別の症状や形となって現れてきます。
例えば、骨の吸収がじわじわ進むとか、インプラントのネジが緩むとか、インプラントのネジが折れるとか、インプラントのフレームがたわむとか、噛み合わせ自体が少しずつ狂ってきてズレるとか、清掃性が悪く炎症が慢性化するとか…
これらの変化はすぐに失敗とはカウントされずに、論文上はただの生存とだけ扱われることも多いのです。
つまり、成功率が高い=生体に無理がないとは、必ずしも言えないわけです。
この点は、有限要素解析(FEM)を用いた研究でも繰り返し示されています。
支点が少なくて、カンチレバーが長い設計では、インプラント周囲骨や補綴装置に集中応力が生じやすいことが複数、報告されているのです。
オールオン4は良くないのか?

いえ、オールオン4が悪い治療であると言いたいわけではありません。
以下のような条件がそろえば、オールオン4が患者さんの生活を大きく改善することもあります。
高齢で外科侵襲を抑えたい方や、骨造成が難しい方、治療期間を短くしたい方、咬合力が比較的弱い方、長期予後より、今のQOLを優先したい方のようなケースでは、オールオン4は現実的な最適解の一つになり得ます。
問題は、その前提条件があまり、説明されないまま、万能治療のように誇張されて提示されることなのです。
なぜ推奨する歯科医師がいるのか
オールオン4を推奨する歯科医師が存在する理由は、以下のとおりです。
治療コンセプトが分かりやすく、結果が早く出て、患者満足度が高く、術式が標準化されていて、論文データが豊富であることです。
特に、短期〜中期の結果を見ると、確かにうまくいっている症例が多いのも事実です。
だから推奨するのは、ごく自然な流れです。
では、否定的な歯科医師は何を見ているのか

オールオン4に慎重な歯科医師、私もその一人なのですが、そのドクター達は、もっと先の時間を見ています。
10年後、15年後、20年後。
患者さんが高齢になり、再治療が難しくなった時にどんな変化があるのか。
その時に、骨はどれだけ残っているか、もし再治療になった場合でも他の選択肢は残っているか、結局装置はどこまで耐えられるか。
ここまでを考えていくと、8本で28本分を支える設計に、構造的な緊張感を覚えてしまうのです。
これは感情論ではなく、生体力学と構造設計の問題になります。
生体力学が示す原則
世界中の研究を見ても、生体力学の基本原則は一貫しています。
つまり、支点は多い方が応力は分散します。支点間距離が広いほど安定します。そして、カンチレバーは短い方がよく、さらに動かない構造ほど設計が重要になるということです。
これは歯科に限らず、橋梁工学でも、建築でも、同じなのです。
オールオン5、6、あるいは分割設計が力学的に有利になることを示す研究が存在するのは、この原則に従っているからなのです。
患者さんはどう考えればいいのか

「どれが正解ですか?」
正解は一つではありません。
全て、“条件付きの正解”しか存在しないのです。
大切なのは、
- 自分の骨の状態
- 噛み込む力
- 年齢
- 全身の状態
- 将来、再治療が可能か
- 何年先まで待てば良いと考えるのか
これらを含めて説明してくれる歯科医師かどうかで選択するべきだと思います。
最後に

オールオン4を推奨する歯科医師も、推奨せず慎重な歯科医師も、私は、どちらかが絶対に正しく、どちらかが間違っていると言いたいわけではありません。
ただ一つ言えるのは、なぜその治療を勧めるのかを生体力学と時間軸で説明できるか。
そこがとても重要であり、信頼できるかどうかの分かれ目であると考えているのです。
噛めること。
見た目が良いこと。
それに加えて、将来の選択肢が残ること。
その三つを同時に考える。
それが、患者さんにとって、1番現実的な答えだと考えています。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Brånemark P-I et al.
Osseointegration and its experimental background.
University of Gothenburg(ヨーテボリ大学) - Malo P, Rangert B, Nobre M.
All-on-4 concept: A clinical report on the immediate function of mandibular implants.
Nobel Biocare / Lisbon University - Papaspyridakos P et al.
Complications and survival rates of full-arch implant-supported fixed dental prostheses.
Harvard School of Dental Medicine 関連 - International Journal of Implant Dentistry (Springer Nature)
Long-term outcomes of All-on-4 treatment concept - Frontiers in Bioengineering and Biotechnology
Biomechanical comparison of All-on-4 vs All-on-5 using finite element analysis - Dental Materials Journal (Japanese Society for Dental Materials)
Mechanical properties of periodontal ligament and stress distribution
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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