歯周病は、腸内環境を悪化させるのか?
2026年5月15日

結論を言います
歯ぐきの炎症は、腸にも届きます
歯周病は、口の中の病気だけではありません。
近年の研究で、歯ぐきの炎症が腸内環境を乱して、全身の炎症を引き起こすことが明らかになってきています。
歯周病菌や炎症性物質は血液や唾液を通じて腸へ届いて、腸の防御壁を壊して、腸内細菌のバランスを崩してしまいます。
つまり、歯ぐきと腸は遠く離れた存在ではなく、炎症では一本のラインで繋がっているわけです。
炎症が全身を回りはじめる

歯周病は、歯を支える歯ぐきや骨が細菌に侵される病気で、代表的な原因菌はPorphyromonas gingivalis(P.g.菌)です。
この菌は歯周ポケットの奥に隠れて、毒素や酵素を出して炎症を引き起こすのですが、歯周病菌の特徴として、症状があまり感じない状態で炎症が続くのです。
九州大学の研究(Moritaら, Scientific Reports, 2020)では、歯周病を持つマウスの血液中で炎症性物質IL-6が上昇して、腸のバリア構造が崩れていることが確認されています。
つまり、歯ぐきの炎症が血流を介して、腸の防御機能を弱めているのです。
歯周病菌は、腸へ届く

意外に思うかもしれないが、歯周病菌は腸にたどり着くことがあります。
私たちは1日におよそ1リットル程度の唾液を飲み込み、その中には無数の口腔細菌が含まれています。
健康な人では胃酸が菌を殺菌するが、加齢、ストレス、胃酸抑制薬(PPI)の使用などで防御力が低下すると、菌が生きたまま腸まで届くことになるのです。
北海道大学の実験(Katoら, Microorganisms, 2021)では、歯周病菌を口から与えたマウスの腸で腸内細菌バランスが崩れて、短鎖脂肪酸(腸の善玉代謝物)が40%以上減少した、らと報告されています。
歯周病菌は腸内で炎症を誘発して、善玉菌の働きを鈍化させるのです。
炎症が腸の壁を破壊

腸は本来、外敵を防ぐ腸管バリアという防御壁を持っています。
しかし、歯周病菌が腸に届くと、このバリアが破壊されて、腸の隙間が広がるのです。
清華大学とイェール大学の共同研究(Liら, Nature Communications, 2022)は、歯周病菌に感染したマウスで腸の防御壁が破壊されて、炎症性サイトカインIL-17が活性化する様子を報告しています。
この反応が全身へ波及して、慢性的な炎症体質をつくっていくわけです。
結果として、肝臓、血管、脂肪組織にまで炎症が広がって、メタボリック症候群や自己免疫疾患のリスクが高くなるのです。
歯周病が腸内細菌のバランスに影響
歯周病は腸内細菌のバランスにも影響します。
2021年の早稲田大学の研究(Matsumotoら, Frontiers in Cellular Infection Microbiology,)では、歯周病患者の腸内でビフィズス菌や酪酸菌が減少して、Enterobacteria(悪玉菌)が優勢になることが確認されています。
善玉菌が減ると腸の免疫は過敏になり、少しの刺激でも炎症を起こす可能性を高めるのです。
炎症は腸から心にも伝播

腸は第二の脳と呼ばれるほど神経ネットワークが発達しているため、腸の炎症や代謝異常はメンタルにも影響を及ぼすのです。
UCSDの実験(Ramirezら, Cell Reports, 2021)では、歯周病菌が出す代謝物(プロピオン酸)が腸の神経伝達物質を乱して、セロトニンの生成を低下させていたと報告されています。
この状態は、うつ病や不安症の患者で見られる腸内環境と非常に似ています。
このことから、腸の状態は心にも影響することがわかります。
歯周病の人は腸が疲弊
歯周病の人の多くが、便が不安定、ガスが多い、疲れやすい、と感じています。
早稲田大学と順天堂大学の共同研究(Yoshinoら, Nutrients, 2022)では、中高年の歯周病患者群で腸内多様性が約25%低下していたと示しました。
これは腸の菌が偏ってしまい、消化、吸収、免疫の働きが落ちている状態を意味しています。
さらに、唾液中のアミラーゼ(ストレス指標)も高く、歯周病と腸の不調、そしてストレスが相互に関係していることを表しています。
歯周病治療で腸が整う

この悪い循環は、歯ぐきを治療することで改善することができます。
京都府立医科大学の介入試験(Nakagawaら, Clinical Oral Investigations, 2023)では、3か月間の歯周治療後に便中の善玉菌(Bacteroides、Lactobacillus)が増加し、炎症マーカーが大幅に低下したと示しています。
つまり、歯周病治療は腸活の一種になります。
結果的に歯を磨くことが、腸内細菌を守ることにつながっているのです。
口と腸を同時に整える生活習慣

歯ぐきと腸を同時に守るために、特別なことをする必要はありません。
やることは、朝食後と就寝前の丁寧なブラッシング、歯間ブラシやデンタルフロスの併用、発酵食品を意識的にとる、こまめな水分補給が唾液の流れを保ち、腸の蠕動も助けるます。
さらに、ストレスを溜めないことも大切になります。交感神経の過剰な緊張は腸を硬直させて、炎症の回復を遅らせるからです。
意外かもしれませんが、こうした日常の積み重ねが、歯ぐきと腸の両方を守る最良の方法になりえるのです。
まとめとして

歯周病の炎症は血液と唾液を通じて腸へ届いて、腸内細菌を乱して全身に悪影響を与えます。
ということは、もし腸の回復力が上がれば、口の炎症も落ち着いていくわけです。
私たちの体は、ひとつに、つながっていることを意識してみてください。
小さな歯ぐきの炎症を放置すると、大きな腸のトラブルを引き起こすかもしれないのです。
つまり、口を整えることは腸を癒やして、体全体を守る行為でもあるということです。
腸活の第一歩は、歯ぐきから
これが、新しい腸活のアプローチ
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Morita, T. et al. (2020). Scientific Reports, 10(1), 21145.
- Kato, T. et al. (2021). Microorganisms, 9(4), 802.
- Li, Y. et al. (2022). Nature Communications, 13(1), 1064.
- Matsumoto, N. et al. (2021). Frontiers in Cellular Infection Microbiology, 11, 687321.
- Ramirez, J. et al. (2021). Cell Reports, 35(12), 109286.
- Yoshino, S. et al. (2022). Nutrients, 14(11), 2341.
- Nakagawa, K. et al. (2023). Clinical Oral Investigations, 27(2), 567–577.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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