知らないと危険?マウスピース矯正の落とし穴
2025年10月28日
みなさん、こんにちは。Dr.Ryoです。今回のテーマはこちらです。
知らないと危険?マウスピース矯正の落とし穴
マウスピース矯正(アライナー矯正)は、透明なマウスピースを装着して歯を動かす治療法で、目立たない、自分で取り外し可能、という利便性から急速に普及しています。特に成人矯正では審美性の高さから選ばれることが多い人気のある治療と言えるでしょう。
しかし、従来のワイヤー矯正とは違い、限界や、リスクが存在します。ご存じでしょうか?
とくに、噛み合わせの安定性、物の粉砕能力、長期的な健康への影響があり、臨床現場では見過ごせない問題があるのです。
ここでは、マウスピース矯正の見えにくいリスク、知らないとはまってしまう、落とし穴、について、論文を引用しながらやや批判的に検討しタイトル思います。
ただ、治療としては、マイナスな部分があるので指摘しますが、美容整形と同等の美容歯科しての視点であれば、問題はないと言えなくもないです。なぜなら、美容であれば機能面は考慮しなくていいからです。
では、初めていきましょう。
1.マウスピースの厚みによる咬合干渉
使用するマウスピースは平均して0.5〜0.75mm程度の厚みがあります。みなさんも想像してください。このマウスピースの厚みが常に歯全体を覆うため、装着中は本来の噛み合わせが再現されません。
実際に、マウスピース装着時は、奥歯ばかりが強く当たって、前歯がほぼほぼ噛み合わない、浮いている状態になることが臨床的にしばしば報告されています(Rossini et al., 2015)。これは、自然な噛み合わせ とはいえず、脳や咀嚼筋に不自然な入力を与え続けることになります。
ワイヤー矯正の場合を考えてみると、歯面にブラケットを装着しても、噛み込む部分に直接、装置の厚みが追加されるわけではないため、マウスピース矯正ほどの不自然な噛み合わせは起こりにくいといえます。
2.調整可能性の欠如
ワイヤー矯正は、ドクターが矯正器具であるブラケットやワイヤーの微調整を行いますから、歯の傾斜や噛み合わせの接触点をマウスピース矯正と比べると、細かく制御できます。それに比べて、マウスピース矯正は、あらかじめ設計されたシミュレーションに依存していて臨機応変な調整がほぼほぼ出来ないという大きな欠点があるのです。
論文のレビューでも マウスピース矯正のアライナーは軽度から中等度の歯列不正には対応するが、複雑なケースには不十分な場合が多い、とされています(Papadimitriou et al., 2018)。つまり、審美的にはきれいに並んだが、噛み合わせは不安定という状態が生じやすいのです。
3.矯正後の咀嚼機能低下
矯正治療の本来の目的は、歯をきれいに並べるだけではなく、機能的で安定した噛み合わせを再現することにあります。
ところが、マウスピース矯正では歯並びが整っても、咀嚼機能が改善せず、むしろ低下する例も存在するのです。
Kriegerら(2013)は、マウスピース矯正の患者は、治療後の上下の歯の噛み合わせの接触点が不均一であるケースが多いと報告しています。このような噛み合わせの不安定な状態は、食物の粉砕能力を低下させて、長期的には消化器系や身体全身の代謝に悪い影響を及ぼす可能性があるのです。
4.長期的リスク
矯正後に、すぐ大きな自覚症状がなくても、5年から10年という長い期間で慢性的な体調不良が現れることがあります。これはいわば、社会毒、のように、目に見えない蓄積するリスクといえます。
不安定な噛み合わせが、自律神経に与える影響については、心身医学領域でも注目されています。Okeson (2019) は、不安定な噛み合わせと、顎関節症が交感神経系を過剰に刺激して、慢性的な頭痛、不眠、抑うつ症状を誘発しうると指摘しています。
結果として、最悪のケースとしては、矯正は終わったが、その後に心療内科へ通う羽目になった、という患者も実際に存在するのです。
私の友人の姪の女性は、まさにこのケースで、学校の先生になりたい、といって矯正したいと伺いました。そのため、アドバイスとして、なるべくワイヤー矯正を選択して、その後、噛み合わせを整える治療である、トータルヘルスケアプログラムを受けた方がいいとアドバイスしました。
しかし、マウスピース矯正をしたようで、その後、自律神経が不安定になり、うつ症状が強く出て、外に出ることがつらくなったようです。
結果的に、学校の先生になる夢を諦めた、と伺いました。現在は、部屋に引きこもっているみたいで、外出するのが、辛い状態が続いているようです。非常に辛いお話しです。このようなケースを予想できるので、アドバイスしたのでますが、残念でなりません。
5.矯正だけでは不十分
矯正治療だけでしっかり噛める状態にするのは、極めて困難で、事実上、不可能です。
ここで考えていただきたいのは、審美性の改善と機能の改善は、同じではないとらいうことです。みなさんは、歯並びが良くなったのだから、噛み合わせも良くなったと思われるかもしれませんが、実際は、違うことを強調しておきます。歯並びはよくなったが、噛めなくなった、という、みなさんが予想もしないことが起きることは、少なくないのです。
そのために、矯正治療を受けた後は、噛み合わせ、全身のバランスを再構築する追加のアプローチが不可欠だと私は考えています。例えば、私が取り組むトータルヘルスケアプログラム®のように、噛み合わせを精密に再分析し、顎関節・筋肉・全身の姿勢まで含めて調整するプロセスが必要といえます
最後に
マウスピース矯正は、見た目の改善はできるが、不安定な噛み合わせを改善するという本質的な課題を解決できないケースが多く存在します。長期的には自律神経の不調を含む全身的リスクを高める可能性すらあらます。
矯正の後の噛み合わせの安定化と、全身のバランス調整までを視野に入れることが、健康な未来を保証する唯一の道であるのです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
健康寿命を本気で伸ばしたいのであれば、マウスピース矯正は第一選択にはなりえません。そのことは覚えておいても損は無いと思います。
色々なご意見はあると思いますが、もちろん、利点もあることは承知しています。ただ、構造的に私が良いと思うレベルには到底届かないのです。
マウスピース矯正をされた方は、トータルヘルスケアプログラムをご検討いただくことをおすすめします。
適切な未来への医療投資をお考えください。
みなさんにとって、未来が輝かしいものであること願っております。
統括院長 Dr.Ryo
このコラムは、ウエスト歯科クリニック、玉川中央歯科クリニックそれぞれで別のテーマで掲載していますので合わせてご覧ください。
参考文献
- Rossini G, et al. (2015). “Efficacy of clear aligners in controlling orthodontic tooth movement: a systematic review.” Angle Orthod.
→ マウスピース矯正は軽度の歯列不正に有効だが、複雑な動きには限界がある - Papadimitriou A, et al. (2018). “Clinical effectiveness of Invisalign® orthodontic treatment: a systematic review.” Prog Orthod.
→ アライナーは前歯の改善には有効だが、噛み合わせ全体の安定には疑問 - Krieger E, et al. (2013). “Accuracy of Invisalign® treatments in the anterior tooth region.” J Orofac Orthop.
→ 治療後も上下の歯の噛み合わせが不均一で、物を粉砕する能力咀嚼が十分に改善しない - Okeson JP. (2019).Management of Temporomandibular Disorders and Occlusion.
→ 不安定な噛み合わせが自律神経から、頭痛・不眠・抑うつなどを引き起こす


