矯正後に起こるトラブル
2026年1月16日
国内外の研究と症例から見えるリスクと解決策を検証しました。
結論を申しますと、美しい歯並びも手に入るが、もしかしたら体と心の代償も。
矯正治療は、見た目を整えるだけのものではなく、顎の位置、筋肉の動き、自律神経の働きにまで影響を与える全身治療でもあることを忘れてはいけません。
しかし、多くの人は、歯並びを良くするだけだから安全、と信じています。
これは、実はほとんどの歯科医師や、医師も同じ感覚なのです。
実際起こっているトラブルとしては、矯正後に頭痛、倦怠感、めまい、耳鳴り、不眠、不安、抑うつ などの症状に苦しむ方が少なくないのです。
その問題で最重要なのが、そのトラブルが矯正の副作用と気づかれないことなのです。
まさか、歯だと考えないために、原因がわからないまま心療内科や内科を転々として、薬を飲み続けても改善せずに、最後は、原因不明、気のせい、と片づけられてしまっているのです。
実は、世界の研究や臨床報告は矯正治療がきっかけで、心身のバランスを崩すことは現実に起こり得ると示しています。
研究が示す“見えないリスク”
東京大学の研究では、矯正を始めた患者の多くが、初期段階で痛みや不快感を感じて、それに伴って不安や抑うつ傾向が一時的に悪化すると報告しています【1】。
心の変化は、噛み合わせの変化による神経生理学的ストレスとも関連している可能性も指摘されています。
中国の四川大学の研究では、769名の矯正患者を対象にした大規模調査の結果、不安が生活の質を低下させる主要因であることが明らかになりました【2】。
また、ヨーロッパ諸国の共同研究でも、矯正中の痛みと抑うつ症状の関連が確認されています【3】。
一方で、日本国内からは、矯正手術を受けた患者が大うつ病性障害を発症した症例が報告されており【4】、海外では、不適切な矯正をきっかけに慢性の原因不明の痛み(Somatoform pain disorder)に移行した例も報告されています【6】。
さらに、2025年に発表されたFrontiers in Psychiatryの症例報告では、18歳の女性が矯正による顔貌変化をきっかけに強い不安を抱き、学校を辞めざるを得なくなったというケースも紹介されています【8】。
つまり、矯正は歯だけの問題ではない、ということを知ってもらいたいのです。
原因不明といわれる患者
矯正後に体調を崩した患者の多くは、歯科ではなく、まず整形外科や内科を受診します。
しかし、MRIや血液検査では異常が見つからず、ストレスと片づけられるのです。
その流れから、心療内科を紹介されて、抗うつ薬や睡眠薬を服用するようになる。そうなると、もう元気いっぱいに日常生活を送れるくらいに回復することは難しいと考えています。
そもそも、原因が、噛み合わせや顎の位置にあるのであれば薬では解決しませんから一時的に楽になっても、体調は再び悪化してきて、もう自分は治らない、と不安に陥る方が少なくないのです。
さらに、一番、深刻だと私が考えるのは、歯科医師でさえもこの領域を深く学ぶ機会がほぼほぼ無いということです。
多くのほとんどの歯科医が、矯正と不調は関係ありません、と説明してしまうため、患者は一人取り残されてしまうのです。
症例が教える、体の声
ある日本の症例では、矯正後に舌や歯ぐきの違和感から始まり、次第に、全身倦怠感、動悸、食欲不振、体重減少へと進行したケースが報告されています【5】。
診断は身体表現性障害でした。つまり、心身が限界を超えた状態ということです。
また、海外では矯正後の神経痛が慢性化し、歯や顎には異常がないのに、強い痛みが続く非定型歯痛(Somatoform pain)へと移行した例もあります【6】。
そして近年、発達特性を持つ方の中で、矯正中に強い不安や感覚過敏が悪化して、治療を中断せざるを得なかった症例も報告されています【7】。
これらの症例は、運が悪かったということではなく、矯正という医療行為が体と心のバランスを揺さぶる可能性があることを示しているのです。
なぜ、この問題が表に出ないのか
一番の理由は、医療統計に残らないからです。
心身の不調は、矯正から数週間〜数か月後に現れることが多く、その時点で通常、噛み合わせを得意とする歯科ではなく、別の科、つまり、心療内科を受診するため、歯科医療のデータとしては扱われないのです。
また、歯科業界は矯正治療を美容医療として宣伝する傾向が強いため、不調や副作用の情報が公に語られにくい、という患者さんにとって不利益なことが明るみにでない、構造的な問題が大きいと私は考えています。
その結果、体調を崩した患者は孤立して、誰にも理解されない辛い症状を抱えたまま、時間だけが過ぎていくのです。
矯正しない、という選択
補足しますが、すべての矯正が悪いわけではありません。
多くの人にとって、美しい歯並びは大きな自信をもたらしますから有益なこともありますよね。
ただ、歯を動かすことは体全体のバランスを変えるという事実を、もっと慎重に知っておくべきなのです。
歯並びを整えたい、という気持ちがあっても、矯正せずに清掃習慣や噛み癖を見直すことで、健康的に維持できるケースも私が担当する患者さんには、たくさんいらっしゃいます。
ここで忘れないでください。
矯正は不可逆的な治療ともいえます。
つまり、一度動かした歯は元に戻らないのです。
そのため、本当に必要か、を冷静に見極めることが、最も重要だと思うのです。
不調が出てしまったら
もし矯正後に体調が崩れたなら、まず、全身のつながりを見直して、それを直せる先生を見つけるしかないと思います。
そして、噛み合わせ、姿勢、顎関節、自律神経、呼吸。これらはすべて連動しており、こうした複雑な相互作用を丁寧に分析して、体のバランスを再構築するアプローチが必要です。
解決策としての、トータルヘルスケアプログラム®
当院が行っているトータルヘルスケアプログラム®は、矯正後の不調を含む、原因不明の体調不良に対応するために開発しました。
100時間以上に及ぶ精密分析を通じて、噛み合わせ、顎関節、姿勢、呼吸、自律神経を総合的に評価、分析します。
さらに内科・心療内科とも連携し、体だけでなく、心の回復まで見据えたサポートを行うのです。
国内外から、どこに行っても治らなかった、原因がわからなかった、という方が来院して、多くの患者さんが改善の兆しを取り戻しています。
まとめとして
矯正治療は、人生を明るく変える力を持つ一方で、体と心に深い影響を与える治療でもあります。
そのために、美しさと 健康を、同じ天秤の上に置いて考える必要があらと私は考えています。
もし、不幸にして不調が出てしまった場合、決して諦める必要はありません。
なぜなら、噛み合わせと全身を見つめ直すトータルヘルスケアプログラム®という道があるからです。
それは、あなたの健康的な体を取り戻すための、もう一つの矯正であるのです。
これは、心と体のバランスを整える、再出発の治療になりえると私は信じています。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Liu, Z. et al. (2021). Anxiety, depression and oral health-related quality of life during initial orthodontic treatment. Angle Orthodontist.
- Sun, L. et al. (2021). Impact of treatment delay on depressive symptoms among orthodontic patients during the COVID-19 pandemic. Frontiers in Psychology.
- Curto, A. et al. (2022). Oral-health-related quality of life and anxiety in orthodontic patients with conventional brackets. Int J Environ Res Public Health.
- Kuroda, S. et al. (2010). Major depressive disorder following orthognathic surgery: A report of three cases. J Oral Maxillofac Surg.
- 日本口腔心身医学会誌. 歯科治療後に口腔感覚異常を訴えた症例報告.
- Mehr, M. et al. (2017). Somatoform pain disorder induced by orthodontic treatment: A case report. J Oral Rehabil.
- Nishimura, M. et al. (2022). Orthodontic treatment difficulties in adults later diagnosed with autism spectrum disorder: Case reports. Psychiatry Clin Neurosci.
- Case Report: Challenges of orthodontic treatment leading to school dropout. Frontiers in Psychiatry, 2025.


