噛み合わせの異常と認知機能低下
2026年9月18日

結論 を言います
噛み合わせは脳の健康を守るカギです
咬合異常、つまり噛み合わせの乱れや咀嚼機能の低下は、認知機能の低下と密接に関係していることが国内外の研究から明らかになっています。
東京大学の研究では、噛むことが注意力や脳の反応速度を高めることが実証されています。
また、海外の研究では、歯の喪失や不良な咬合が脳の構造変化や認知症リスクの上昇と関連することが示されています。
つまり、噛む力と脳の働きは、神経、血流、炎症といった複数の経路で深く結びついていて、噛み合わせを整えることが、脳の健康を支える医療行為であるといえるのです。
東京大学の研究、 咀嚼が脳を活性化

東京大学大学院医学系研究科のチームは2010年、ガムを噛むことによる脳波の変化を調べました。
その結果、物を粉砕する咀嚼中の被験者では注意力や判断速度を司る脳の前頭前野活動が高まることが確認されています。
つまり、噛むことが脳の神経活動を刺激して、集中力や認知機能を高める効果があるということになります。
東京大学高齢社会総合研究機構が主導した「柏スタディ」(2023年)では、約1,500人の高齢者を対象に咀嚼習慣と認知機能の関係を調査しました。
週30分以上ガムを噛む習慣がある人は、咀嚼力、身体機能、記憶力、判断力などの認知機能が全体的に良好であり、オーラルフレイルという口の老化も少ない傾向が見られました。
この結果は、噛む習慣が全身の活力と脳の健康を支えていることを示しているといえるのです。
海外の研究、口腔と脳をつなぐエビデンス

ニューヨーク大学のKamerらによる2015年の研究では、歯周病患者の脳をPET画像で解析したところ、歯周病の重症度が高いほど脳内アミロイド沈着が多いことが分かりました。
この結果、慢性的な口腔炎症がアルツハイマー病の病理変化に関与している可能性を示しました。
スウェーデンのカロリンスカ研究所が実施した40年にわたる長期追跡研究では、歯の喪失や咬合不良がある人は、問題がない人に比べて認知症の発症リスクが明らかに高いことが判明しました。
特に、80歳未満で発症する若年性認知症においては、その傾向がより顕著にでました。
スペイン・グラナダ大学のMRI研究(2024年)では、噛み合わせの数が少ない人ほど前頭葉や側頭葉の灰白質・白質体積が小さいことが報告されています。
これは、咬合喪失が脳の構造変化に直結している可能性を示す、非常に重要な研究成果といえます。
咬合異常と認知機能低下を結ぶメカニズム

これらを統合すると、咬合異常や噛む力の低下が脳機能に影響を及ぼす経路はいくつか考えられます。
第一に、神経活動の低下です。
噛み合わせの偏りによって感覚刺激が減ると、脳の海馬や前頭前野での神経活動が弱まって、記憶や判断の処理能力が落ちる可能性があります。
第二に、慢性的炎症の波及です。歯周病などの口腔炎症は、血液を介して全身に炎症性サイトカインを広げて、脳内でアミロイド沈着や神経変性を進める要因になると考えられるのです。
第三に、血流の変化。顎のズレや筋肉の緊張が頸部血流に影響を与えて、慢性的な血流不足を引き起こす可能性があります。
そして第四に、脳構造の脆弱化です。長期的な咬合喪失により、神経刺激が減ると脳の灰白質・白質体積が減少して、構造的に脆くなることが示されています。
若年性認知症

注意力や遂行機能の早期低下は、咀嚼刺激の減少と関連している可能性があり、また歯周病のコントロールは、脳の病理的変化を抑える要因となります。
さらに、咬合の維持や改善が脳の構造を保ち、認知症の進行を遅らせる可能性もあります。
包括的アプローチの重要性

日本で開発された「トータルヘルスケアプログラム®」は、こうした科学的背景を踏まえた新しい医療モデルとして注目されています。
このプログラムでは、二次元、三次元解析による顎顔面、咬合評価、筋、姿勢、自律神経との統合診断、そして個別の治療計画例えば、補綴、矯正、筋機能訓練などを組み合わせて、脳と体の調和を回復することを目指しています。
さらに、画像診断や、AIモニタリングを取り入れることで、口腔と中枢神経のつながりを可視化することも可能になっています。
このように、歯科の領域を超えた包括的なアプローチが、将来的に若年性認知症の予防や進行抑制に寄与する可能性があるのです。
結論

東京大学の研究は噛むことが脳を活性化させて、歯周病とアミロイド蓄積の関連を報告しました。
カロリンスカ研究所は不良な口腔状態が認知症リスクを高めることを示して、グラナダ大学は咬合の喪失が脳構造自体に影響することを明らかにしました。
これらを総合すると、咬合異常や咀嚼機能の低下は、認知機能の低下を引き起こす重大な要因であることが示されています。
認知症を脳の病気としてだけでなく、口の病気としても捉える新しい視点が、今後の医療に欠かせないと考えています。
噛み合わせの改善、歯周病の予防、咀嚼機能の回復こそが、脳と身体の健康を守る新しい第一歩となりえるのです。
コラムはウエスト歯科クリニックと玉川中央歯科クリニックで、それぞれ異なる内容を掲載しています。ぜひ、もう一方のコラムもあわせてご覧ください。
参考文献
- 東京大学大学院医学系研究科 (2010). 咀嚼と脳活動のERP研究.
- 東京大学高齢社会総合研究機構 (2023). 柏スタディ:ガム咀嚼習慣と認知・身体機能.
- Kamer AR, et al. (NYU). Periodontal disease associates with higher brain amyloid load. Neurobiol Aging. 2015.
- Hassan NI, et al. (Karolinska Institute). Poor Oral Health as a Risk Factor for Dementia in a Swedish Population. J Alzheimers Dis. 2022.
- López-Chaichío L, et al. (University of Granada). Mastication Influences Human Brain Anatomy. J Oral Maxillofac Res. 2024.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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