がん治療は、虫歯を悪化させる?!
2026年3月13日
ご存じでしょうか。
がん治療は、がん細胞だけを攻撃しているように見えて、実は口の中の免疫や唾液、血流、組織の修復力にも影響を与えています。
その結果、虫歯が早く、広く、深く進むケースが多く報告されているのです。
つまり、がん治療中に歯が悪くなるのは間違いありません。ただそれは歯の磨き方が良くないとかということではなく、体の防御機能が弱まっているから引き起こされるのです。
放射線治療で起きる虫歯
頭や首のがんに放射線をあてると、がんの周囲にある唾液腺、具体的には耳下腺、顎下腺、舌下腺なども一緒にダメージを受けてしまうのです。
唾液が減ると、口の中が乾くだけでなく、唾液による歯を守るバリア機能が失われてしまいます。
唾液は本来、酸を中和し、歯の再石灰化、つまり、修復を助ける効果があるのです。
その唾液が枯れてしまうと、歯の根元や裏側から一気に歯がダメージをうける。これが放射線性う蝕と呼ばれるものになります。
通常の虫歯と違い、黒くならず白く軟らかくなっていくタイプも多くて、短期間で歯が壊れてしまうこともあるのです。
東京医科歯科大学の研究では、頭頸部がんの放射線治療を受けた患者の約8割が1年以内に新しい虫歯を発症したと報告されています。
原因としては、唾液の量の減少だけでなく、歯の内部構造がもろくなること、口の中の細菌が増えることなど、複数の要因が重なるために引き起こされるのです。
薬の影響による虫歯
抗がん剤は、がんの増殖を止める、もしくは抑制する効果がある一方で、口の中の細胞や唾液腺、免疫細胞にも影響を与えます。
その結果、虫歯になる条件がいくつも重なってしまうわけです。
治療中は口が乾きやすく、よくドライマウスという症状です。
こうなると、粘膜炎ができて歯みがきが痛くなり、磨けない部分に汚れがたまりやすくなります。
また、味覚の変化や口内炎の痛みから、柔らかく甘いものを食べがちになって、虫歯菌の繁殖するための要素も増えていきます。
さらに、白血球が減って免疫が下がることで、虫歯が炎症や感染を起こしやすくなるのです。
アメリカ・MDアンダーソンがんセンターの調査では、化学療法を受けた患者の約6割が新しい虫歯を発症していたという報告がされています。
免疫療法による副作用
近年使われている免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボやキイトルーダなど)は、がんと戦う免疫を活性化させる画期的な薬といわれています。
しかし、免疫が強くなりすぎると、自分自身の唾液腺を攻撃してしまい、乾燥症、別名ドライマウスを起こすことがあります。
もちろん、唾液が減れば当然、虫歯のリスクも上がります。
ハーバード大学の研究では、免疫療法を受けた患者の4人に1人がドライマウスを発症して、そのうち多くが半年以内に新しく虫歯を増やしていたそうです。
また、分子標的薬では味覚の変化や食欲不振が起きやすく、清掃不足や糖分偏りの食事が続くことで虫歯が進行しやすくなるのです。
放射線性う蝕の特徴と進行
放射線性う蝕は、一般的な虫歯と違い、歯の根元から環状に崩れるのが特徴とされています。
見た目が黒くならないため気づきにくく、気づいた時には歯の形が失われていることもある。
東京歯科大学の研究では、照射量が60Gy(グレイ)を超えた患者の7割が1年以内に放射線性う蝕を発症していた。
そのため、放射線治療が決まった段階で歯科のサポートを受けることが極めて重要である。
治療前の口の準備で現れる差
がん治療の前に口の中を整えることは、全身の治療成功率を高める下準備でもあるのです。
国立がん研究センターと日本口腔外科学会のガイドラインでは、治療前に虫歯や歯周病を治して、義歯を調整し、フッ化物塗布やブラッシング指導を行うことが推奨されています。
さらに、保湿ジェルや人工唾液を使って、ドライマウスを予防することも有効になります。
また、免疫力を整える目的で治療設計されているトータルヘルスケアプログラム®︎も効果的であると考えています。
こうした介入によって、放射線性う蝕や感染性合併症の発生を大幅に減らせることが期待されています。
治療後は、唾液を守るケア
治療が終わっても、唾液腺が完全に回復するには時間がかかります。
その間は、フッ化物入り歯みがき剤(1,450〜5,000ppm)の使用や、保湿ジェル・人工唾液スプレーでの乾燥対策も必要かもしれません。
キシリトールガムなどで唾液を刺激し、酸性の飲み物は控えます。
就寝前に水分を取ることや、夜間用の保湿マウスピースを使うのも効果があると思われます。
治療後3か月以内に歯科で専門的クリーニングを受けることで、細菌バランスを安定させることができると言われています。
さらに、本質的に唾液を出すことを目的とするのであれば、根本的に物の粉砕効果を最大限に導くトータルヘルスケアプログラム®︎も有効な手段の一つとなりえます。
まとめとして、
がん治療は命を守るための大切な医療です。ただ、同時に口の健康を守ることが治療の成功に影響を及ぼすのです。
放射線による唾液の減少、抗がん剤による口内炎、免疫療法による乾燥などの不具合、これらはすべて虫歯を進行悪化される要素なのです。
ただ、歯科と医科が協力してケアを行えば、その悪循環は断ち切れる可能性が飛躍的に上がります。
口を整えることは、がん治療を支えるもう一つの医療てあることを改めて認識してみてください。
そうすると、歯を守ることが、治療の継続と回復を助けるのに、最も重要な要素になることが理解できるはずです。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Yamazaki, K. et al. (2019). Oral Oncology, 95, 13–20.
- Vissink, A. et al. (2015). Oral Oncology, 51(9), 825–831.
- Patel, J. et al. (2020). Supportive Care in Cancer, 28(8), 3643–3651.
- Moynihan, P. et al. (2021). Journal for Immunotherapy of Cancer, 9(3), e001789.
- Fujimoto, Y. et al. (2019). Journal of Prosthodontic Research, 63(4), 497–503.
- Tanaka, Y. et al. (2020). Japanese Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, 66(7), 298–310.
- MD Anderson Cancer Center. (2022). Oral complications of cancer therapy: clinical practice guidelines.
- WHO. (2022). Global Oral Health Status Report.
この記事は
医療法人社団 聖和厚生会
ウエスト歯科クリニック/玉川中央歯科クリニック
統括院長
Dr. Ryo が執筆しました。
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