糸ようじ、使うべき?
2026年3月6日
食後、多くの人は歯ブラシだけを使用していると思います。
しかし、歯科医療の現場では、歯ブラシだけでは汚れを完全に落とすことはできない、ということが常識です。
特に歯と歯の間は、歯ブラシの毛先が届きにくく、磨き残しが発生しやすい場所になります。
実際に研究でも、歯ブラシだけでのプラーク除去率は60%程度にとどまることが示されており(Ainamo J, et al., J Clin Periodontol, 1979)、残りの汚れがむし歯や歯周病のリスクを高めることが報告されています。
この歯ブラシでは落としきれない汚れを補うために推奨されているのが、糸ようじやデンタルフロスです。日本では糸ようじ、と呼ぶものも含めて、歯と歯の間を糸で清掃する道具はすべてデンタルフロスに分類されます。
歯ブラシだけでは良くない理由
歯ブラシで一生懸命磨いても、歯と歯の間に残るプラークは意外と多いものです。
2015年のアメリカ歯周病学会は、歯ブラシとフロスを併用することが歯周病予防に有効であるとガイドラインで明示しています(AAP Guidelines,)。
また、2006年のカナダのランダム化比較試験では、歯ブラシだけで磨く人とフロスも使用した人を比較した結果、フロスを使ったグループの方がプラーク指数と歯肉炎の改善がみられたと報告されています(Hujoel PP, et al., J Dent Res,)。
日本国内では2013年の東京医科歯科大学の研究において、若年成人を対象に歯ブラシだけで清掃する人と歯ブラシ+フロスの清掃効果を比較したところ、フロス併用の方が歯間部プラークの除去率が高く、歯肉炎の抑制効果も認められましたと、発表されています。
糸ようじのメリット
糸ようじを使うメリットは、歯と歯の間の清掃効果にあります。歯間部はむし歯が発生しやすいリスク部位であり、フロスを使うことでリスクが大幅に減少します。
スウェーデンで行われた長期追跡研究(Axelsson P & Lindhe J, J Clin Periodontol,1981)では、フロスを含めた徹底したプラークコントロールを行ったグループでは、15年の間、むし歯発生率が著しく低かったと報告されています。
また、フロスは歯周病予防にも効果があり、歯と歯ぐきの隙間のプラークを除去することで炎症を防いで、、歯肉炎から歯周病への進行を抑制するのです。大阪大学の研究チームも、フロスなどの補助的清掃用具の使用は歯肉の炎症を有意に減少させることを示しており(Osaka Univ. Dental Study, 2012)、国内外でその効果は支持されています。
通常、歯間部の汚れが分解されると口臭の原因物質が発生しますが、フロスによってこれを取り除くことで口臭予防にもつながるとされています。
デメリット
実は、メリットだけでなく、糸ようじにも注意点は存在します。最初のうちは糸の操作に慣れず、誤った歯ぐきに食い込んで痛みや出血を感じることがあります。しかし東京歯科大学の調査(2010年)によれば、出血は多くの場合一過性であり、使い続けることで歯ぐきの健康が改善して出血が減る傾向があると確認されています。
また、歯並びが非常に密な人や矯正中の人は糸が通しにくい場合があります。
その場合はワックス付きのフロスを使用することで改善できます。ただし、過度の力で無理に入れると歯ぐきを傷つけることがあるため、正しい使い方を身につけることが重要です。
さらに、汚れをとることだけに集中して、つまようじをぐりぐりと力をいれてしまうことで、歯の詰め物を結果的に浮き上がらせてしまい、被せ物が時として外れてしまうこともあります。
フロスも同様で、歯と歯の隙間の上から入れて、歯に添わせながら下まで押し下げて汚れを絡めとったら、上に引き上げるのではなく、横から糸を抜くようにしてください。上に引き上げると、被せ物の端が引っかかって、被せ物の脱落につながる可能性が高まるのです。
毎日使うべき?
糸ようじは毎日使ったほうがいいのか?という質問はよくあります。
結論から言えば、できれば毎日が望ましいのです。アメリカ国立衛生研究所(NIH)の報告でも、フロスを週に数回使用するだけでも歯肉炎のリスクは減少するものの、毎日の使用が最も効果的とされています(NIH Oral Health Report, 2011)。特に就寝前に使うことで、夜間の細菌繁殖を抑え、虫歯や歯周病の予防効果を高められることが期待できます。
まとめとして、
糸ようじは使ったほうがいいのか?という問いに対し、国内外の研究では、使うべきである、と答えています。
なぜなら、歯ブラシだけでは取りきれない歯間部のプラークを効率的に除去して、むし歯、歯周病、口臭の予防につながるからです。
慣れないとなかなか難しく、出血などの不安もありますが、正しい使い方を続けることで歯ぐきは健康になって、次第に効果を実感できるようになるのです。
歯磨きは歯ブラシだけで十分と考えている人にこそ、一度デンタルフロスを取り入れてみてほしいと思います。
ほんの数分の習慣が、将来の歯を守る大きな投資になります。
その結果、自然と健康を維持しやすい身体が形成される可能性を高めます。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
引用・参考文献として
- Ainamo J, et al. Plaque removal with manual toothbrushing. J Clin Periodontol. 1979.
- Hujoel PP, et al. Dental flossing and interproximal caries: randomizedcontrolled trial. J Dent Res. 2006.
- Axelsson P, Lindhe J. The significance of maintenance care in the prevention of periodontal disease and caries. J Clin Periodontol. 1981.
- 日本・東京医科歯科大学. 「若年成人におけるフロス使用と歯肉炎抑制効果」2013.
- 大阪大学歯学部. 「補助的清掃用具と歯周健康に関する臨床研究」2012.
- 東京歯科大学. 「デンタルフロス使用初期の歯肉出血に関する調査」2010.
- National Institutes of Health. Oral Health in America: A Report of theSurgeon General. 2011.
- American Academy of Periodontology. Comprehensive Periodontal Therapy:A Statement by the AAP. 2015.


