フランス人と日本人、虫歯が多いのは?
2026年2月10日
結論をいいます。
フランスは味わいながら守る、日本は我慢して削ります。
つまり、統計的には、虫歯が多いのは日本人のほうです。
その結果は「砂糖の摂取量」や「歯磨き回数」の差ではありません。
根本にあるのは、文化と健康観の違いなのです。
フランスでは、食事の時間を守り、味わいを大切にして、社会全体で予防を支える仕組みがあります。
それに対して、日本では、忙しさと便利さの中で、食事のリズムが乱れて、歯のケアが後回しになりがちになります。
つまり、フランス人は食事をしっかり味わうことで守って、日本人は我慢することで削ることになる。
虫歯の差は、生活のテンポと文化の差が生んでいるといえます。
1.虫歯は文化を映す鏡
虫歯になる背景には、食べるという行為への考え方や、身体と社会の関係性が深く関わっていると考えています。
フランスの食卓にはワインとチーズ、甘いタルト。
日本の食卓にはご飯と味噌汁、そして菓子パン、スイーツ。
どちらも豊かな食文化を持ちますが、食べる時間と食事の楽しみ方は、対照的といえます。
この食べ方による文化の違いが、口の中の健康を恐ろしく左右しているのです。
2.フランスでは
フランス人の食生活は、朝・昼・夜が明確に区切られて、間食はほとんどしない傾向にあります。
子どものおやつ は午後4時の1回だけ。
2023年の公衆衛生機関 Santé publique Franceによると、12歳児の平均DMFT(虫歯・喪失・充填歯の合計)は1.1本です。
これはヨーロッパ平均よりも低い数字です。
砂糖の摂取量自体は決して少なくないのですが、食べる時間をキチンと守ることで、口を休ませる文化があるわけです。
さらに、よく噛み、ゆっくり食事を味わうことを礼儀とするため、唾液の分泌が促されて、自然に口内の酸が中和されるのです。
時間をかけて味わう、という行為そのものが、フランスでは健康習慣の一部になっているのです。
3.日本では、
日本の食文化は豊かですが、それだけではなく、忙しさの文化も共存しています。
コンビニ食や、菓子パン、スナック、ペットボトル飲料などなど。
一日に何度も何かを食べる、だらだらと食べることが、一般的です。
2015年のWHOの報告では、虫歯のリスクは糖の量より摂取頻度で決まる、と指摘しています。
つまり、間食の多さが歯を長時間、酸性状態にさらしていることになるのです。
それだけでなく、さらに、多くのビジネスマンの方は昼食を短時間で済ませ、歯を磨く余裕もなく、夜にまとめて歯を磨く習慣では、歯が酸にさらされた時間が長く、エナメル質の酸によるダメージは回復しにくいのです。
日本とは対象的に、フランスのように昼食後に水を飲んで、コーヒーをゆっくり味わう食後の間が、実は歯を守る時間になっているのです。
4.医療制度の哲学
フランスでは、社会全体で病気を防ぐシステムがあります。
社会保障制度(Sécurité sociale)は予防を重視して、16歳までの歯科検診と治療は無料であり、学校でも定期的な歯科健診が義務化されています。
一方、日本では治療に手厚い一方、予防支援は限定的といえます。
おそらく、虫歯になっても保険で安く治せるという安心感が、かえって予防意識を弱めているのではないでしょうか。
フランスでは国民の健康の維持は社会の責任、日本では個人の努力というような位置付けです。
この考え方の違いが、歯の健康行動に表れているのです。
5.教育と家庭
フランスの子どもは3歳頃から歯医者に行き、親と一緒にブラッシングを学びます。
学校では、なぜ歯を守るのか、という理由を教えるのです。
例えば、歯は味覚を支える器官であり、歯が悪いと食べ物の味が変わると伝えるのだ。
日本では虫歯になるから磨こう、という教育が多く、歯の意味を考えることはまずありません。
フランスで歯科医は専門家として尊敬されるが、日本では技術者しての印象が強いのは、それも理由の一つだと思います。
この差が、健康への文化的成熟度の違いを物語っているのではないでしょうか。
6.味覚と砂糖の哲学
フランスはスイーツ大国です。
甘いものは味わうものとして扱われるのに対して、デザートは食事の延長であり、時間を楽しむためのものなのです。
一方、日本の甘味文化は間を埋めるものとして発展してきました。
仕事の合間や夜食に少しずつ口に入れる。
この習慣や、文化が、口内環境に小さなダメージを積み重ねていくことになるのです。
7.語る、と沈黙
フランスでは、口は語るものであり、笑顔やワイン、会話を通じて人間関係を築いていきます。
そのため、歯を保つことは社交の一部でもあるのです。
日本では、口は慎むもの。
静かに食べ、あまり歯を見せないことが礼儀とされてきました。
そのため、歯のケアも見えない範囲で行われやすい。
つまり、口の使い方そのものが文化によって違うのです。
話す文化では歯が守られ、沈黙の文化では歯がかなり酷使されます。
これが、文化的な視点で見た虫歯の差に繋がっているのです。
8.まとめとして、
フランスでは、食事を味わい、身体を大切にし、社会が子どもの歯を守るという考えです。
日本では、便利さと我慢の中で、歯を守る“時間的な余裕が失われています。
つまり、虫歯の差は、歯科医療の技術ではなく、文化と時間の使い方の違いが生み出しているといえるのです。
非常に興味深い結論だと考えています。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献(引用一覧)
- Santé publique France. Enquête nationale de santé dentaire 2023. Paris, 2023.
- World Health Organization. Sugars and Dental Caries: Technical Note. Geneva, 2015.
- Ministère de la Santé et de la Prévention (France). Programme de prévention bucco-dentaire chez l’enfant. Paris, 2022.
- Matsumoto, H. et al. “School-based fluoride mouth-rinse and oral health of Japanese children.” BMC Public Health, 2024.
- Takahashi, N., Nyvad, B. “Ecological approach to dental caries prevention.” J Dent Res, 2011.
- Ministry of Health, Labour and Welfare (Japan). Survey of Dental Diseases. Tokyo, 2023.
- FAO. Food Balance Sheets: Sugar Consumption by Country. 2023.
- Li, Z. et al. “Global, regional, and national burden of dental caries 1990–2021.” BMC Oral Health, 2025.
- Cadiot, P. La bouche et le goût: culture et santé en France contemporaine. Paris: CNRS Éditions, 2019.


