腸活する前に、歯科治療?!
2026年1月23日
結論から申しますと、腸活するなら口の中
腸内環境を整えたい、誰もが健康の基本として腸を意識する時代になりました。
ここで一つ見落とされがちことがあります。
それは、腸を整える前に、先に整えるべき場所があるのです。
それが口の中です。
私たちは、食べ物を口に入れる瞬間から消化が始まって、唾液、歯、舌、細菌など、すべてがそのまま腸へと送られていきます。
つまり、腸は川で例えると、口から見て下流にあたります。
上流の口腔環境が汚れていれば、どんなに良い食事やサプリを摂る腸活をしても、腸の働きは十分に発揮されないのです。
それなら、腸活する前に、まず歯科治療という考え方が、世界で注目されてきています。
腸と口は、つながっている
私たちの体の中で、外と内がつながっている場所は、消化管しかありません。
口から肛門まで続く約9メートルの管の中は、すべて外界と通じていています。
口腔は、約700種類の細菌が常に活動しています。
この中には、唾液や歯垢に住みついている常在菌だけでなく、虫歯菌、歯周病菌、カンジダ菌などの病原性細菌も含まれます。
これらの菌は、食べ物や唾液とともに腸へと運ばれていきます。
健康なときは腸の免疫が守ってくれますが、口の中が炎症を起こしていると、そのバランスが崩れて、腸内細菌叢(フローラ)が乱れることが分かってきました。
東京大学医科学研究所とスウェーデン・カロリンスカ研究所の共同研究(Nature Microbiology, 2021)では、口腔内の細菌構成と腸内細菌の多様性に強い相関があることを示しました。
特に、歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)*が多い人ほど、腸の炎症性細菌(Enterobacteriaceae)が増えていました。
つまり、口の中の菌のバランスが、腸の菌バランスを決めているのです。
歯周病は、腸の炎症スイッチを入れる
腸活は、善玉菌を増やす、発酵食品を食べる、いった方法が知られていますが、その前に炎症を引き起こす火種を消すことが大切なのです。
その火種の代表格が、歯周病です。
歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨が炎症で壊される病気で、日本人の成人の約7割がかかっています。
この歯周病の炎症物質(IL-6、TNF-α、CRP)は血液に乗って全身を巡り、腸の免疫細胞を刺激することから、腸の粘膜が過敏化して、腸内環境が乱れるのです。
九州大学の研究(Morita et al., Scientific Reports, 2020)では、歯周病を持つマウスは腸のバリア構造が破壊されて、腸内炎症が慢性化していることが示されます。
つまり、腸活をしても口の中に炎症が残っていれば、意味がない状態なのです。
虫歯や口臭も、腸の乱れと関係
歯周病だけでなく、虫歯や口臭も腸と関係しています。
虫歯菌(Streptococcus mutans)は、糖を分解して酸を作り、歯を溶かします。
このときに生まれる乳酸や代謝物は、唾液から腸に届いて、腸内のpHバランスを酸性側に傾けます。
腸内が酸性に偏ると、ビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌が減って、悪玉菌が繁殖しやすくなるのです。
さらに、歯や舌の汚れが多いと、腐敗菌(Fusobacterium、Prevotella)が増えて、アンモニアや硫化水素などの有害ガスを発生します。
これらは唾液から胃や腸に入り、腸内環境をさらに悪化させます。
つまり、口臭が強いと、腸のガス環境も乱れていることが多くなります
腸活がうまくいかない人の共通点
腸活をても成果が出ない人の多くは、口腔トラブルの放置をしています。例えば、歯石や歯垢が溜まっている、歯ぐきから血が出る、舌の表面が白く厚い、ドライマウス(唾液量が少ない)など。
こうした状態では、腸へ送られる唾液や細菌の質が悪化してしまいます。
唾液は腸の健康を守るバリアですが、汚れた唾液はむしろ腸を刺激するのです。
ハーバード大学の研究(Sato et al., PNAS, 2020)では、唾液中のIgAが少ない人ほど、腸内の悪玉菌比率が高かったと報告されています。
つまり、口の免疫力が下がると、腸も守れなくなるのです。
腸内細菌は、きれいな食べ方が好き
どんなに高品質な発酵食品やサプリを摂っても、口の中で細菌が繁殖していると、それが一緒に腸へ流れ込んで、発酵ではなく腐敗が進みやすくなります。
東北大学の研究(Okano et al., Journal of Clinical Periodontology, 2022)では、歯周病治療を受けた患者の腸内細菌バランスが改善して、短鎖脂肪酸(酪酸など)の産生量が増えたことが示されました。
つまり、腸活には、まず口の中を発酵させない環境を整えることが重要で、歯石除去、舌清掃、唾液ケアを怠ると、腸は常に腐敗した不衛生な栄養を受け取り続けることになるのです。
歯科治療は、腸の治療
歯科治療によって腸内フローラが整う例は数多くあります。
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の報告(Ramirez et al., Cell Reports, 2021)によると、歯周治療を受けた患者では、治療後3か月以内に腸内の多様性が回復して、炎症性サイトカインが減少したことがわかりました。
また、京都大学とスイス・チューリッヒ大学の共同研究(Yoshida et al., Frontiers in Immunology, 2022)では、歯周病菌を減らすことで腸のT細胞バランスが正常化して、自己免疫疾患の症状が軽減したと報告されています。
つまり、歯ぐきの炎症を抑える行為が、腸の免疫を整える治療行為になっているのです。
腸活を成功させるために
腸内細菌を本当に整えるなら、食事、運動、睡眠、口の管理を全てセットにする必要があります。
例えば、口臭菌と腐敗菌を減らすために朝晩の歯みがき+舌みがき。
3〜6か月ごとの歯科クリーニング。
唾液分泌が増え、腸の蠕動も活発にするために、良く噛む習慣。
口と腸の潤いを同時に保つために、水分補給菌が正常に働くために、発酵食品は“きれいな口”で摂ること。
つまり、腸活は腸から始めるのではなく、口からなのです。
歯科と腸内科の連携が、新しい予防医療
東北大学病院では、歯科と消化器内科が連携して、歯周病患者の腸内細菌を解析するプロジェクトが進行しています(2023)。
初期の結果では、歯周炎の改善すると腸の炎症マーカーも低下しており、口から腸を治す医療が現実になりつつあります。
これからの医療では、歯科と内科の境界はボーダレスになってきて、全身を整えるための歯科治療が主流になってきます。
結論として、腸活を始めるなら歯科治療
腸は体の中心的な臓器で、免疫や代謝に関係しています。
しかし、その腸を刺激するのは、口から入ってくる微生物なのです。
歯石、歯周病、舌苔、虫歯を放置したまま腸活しても、腸は常に炎症状態になっているため、いくら善玉菌を入れても、定着しづらくなります。
そのために、腸を整えたい人ほど、最初に歯科で悪いところをリセットすることが大切なのです。
まとめると、腸活の第一歩は、歯の治療。
その最初の一歩が、あなたの体全体のバランスを大きく変えるかもしれません。
※本コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Nakajima, M. et al. (2021). Oral microbiome influences gut microbiota diversity in adults. Nature Microbiology, 6(9), 1319–1328.
- Morita, T. et al. (2020). Periodontal inflammation disrupts intestinal barrier and promotes systemic inflammation. Scientific Reports, 10(1), 21145.
- Sato, K. et al. (2020). Salivary IgA regulates intestinal microbiota balance. PNAS, 117(15), 8432–8439.
- Okano, K. et al. (2022). Periodontal therapy improves gut microbial balance. J Clin Periodontology, 49(6), 602–610.
- Ramirez, J. et al. (2021). Periodontal treatment modulates gut inflammation through the microbiota–immune axis. Cell Reports, 36(2), 109396.
- Yoshida, H. et al. (2022). Oral–gut immune interaction and systemic inflammation. Frontiers in Immunology, 13, 865433.
- Fujita, N. et al. (2023). Oral hygiene and gut microbiome stability in Japanese adults. Nutrients, 15(3), 611.


