高血圧の薬で口臭が強くなる その真相とは?
2025年12月19日
みなさんこんにちは、ドクターリョウです。
論文で学ぶシリーズ、今回のテーマはこちらです。
高血圧の薬で口臭が強くなる その真相とは?
高血圧は、日本だけでなく、世界で最も一般的な生活習慣病の一つです。薬を服用しているよる人は非常に多く、薬を服用してから口が渇きやすくなった、口臭が強くなったと感じる人は少なくありめせん。口臭と薬の関係は一般には知られていませんが、国内外の研究によって、その関係が少しずつわかってきました。
本コラムでは、口臭がでる仕組みから検証して、高血圧治療薬が、なぜ一部の人に口臭が強くなる傾向がみられるのかを解説していきます。
口臭とは?
一般的に口臭は、口の中の細菌によって生み出されれます。細菌がたんぱく質を分解する時に硫黄を含む物質が発生して、これが揮発して鼻に届くことで不快なにおいとなる。特に揮発性硫黄化合物と呼ばれる硫化水素やメチルメルカプタンなどが主な原因になります。これらは、舌の上にたまる舌苔や歯周ポケットに潜む細菌によって作られやすいのです。。唾液はこれらを希釈し洗い流す役割を担っているため、唾液が減ると細菌の活動が活発になって、においが強くなるわけです。
血圧の薬と口臭
つまり、高血圧の薬そのものがにおいを発するわけではありません。口臭を引き起こすには、薬の副作用としての口腔乾燥、歯肉の変化があるのです。
ハーバード大学やカリフォルニア大学の研究グループは、薬剤性による口腔乾燥が、中高年患者の生活の質に大きく影響していると報告しています。東京医科歯科大学や大阪大学の口腔生理学分野からも同様の指摘がされており、唾液量の減少が、口臭を悪化させる要因となることが示されている。
利尿薬の影響
高血圧治療の代表的なものとして、利尿薬がありますが、これは体の余分な水分を尿として排泄させる作用をもっているので血圧を下げるのに効果的なのですが、体内の水分が排出されることから、水分が不足しやすくなります。
結果として、口腔内も乾燥しやすくなり、唾液による自浄作用が低下していきます。スタンフォード大学の薬理学研究では、利尿薬を使用している患者さんの唾液の分泌量が明らかに低下することが確認されています。つまり、これが口臭発生リスクを高める要因になると考えられるのです。
ACE阻害薬とARBの影響
ACE阻害薬やARBは、血管を拡張させて血圧を下げる効果のある薬でなのですが、これらの薬は口渇や味覚の変化を引き起こす可能性があります。 イギリスのキングスカレッジロンドンの研究では、ACE阻害薬を服用している患者さんの中で口渇を訴える割合は数パーセントにのぼり、一部の人には味覚異常も報告されています。味覚が変化すると、食事内容や口腔清掃習慣にも影響が及ぶことから、口臭が目立つことがあるのです。
カルシウム拮抗薬と歯肉増殖
カルシウム拮抗薬の副作用として、歯肉増殖があげられます。 歯肉増殖の症状としては、歯肉が腫れて歯と歯の間にすき間ができて、歯垢がたまりやすくなります。ニューヨーク大学歯学部や九州大学歯学部の臨床報告では、この歯肉増殖は数パーセントから20%程度の患者で確認されて、歯周環境の悪化につながります。また、歯周病菌は揮発性硫黄化合物を多く産生するため、この状態が続けば口臭が強くなるのです。
β遮断薬の影響
β遮断薬は心臓の負担を減らすために使われますが、直接的には口臭を強くすることは少ないと考えられます。 ただ、全身の血流や代謝に作用するため、間接的に唾液分泌や口腔環境に影響を与えることがあります。
カナダのトロント大学の報告では、β遮断薬服用者の一部に口渇がみられたと報告されており、少しではあるのですが、口臭の増加要因になり得ると考えられます。
実際の頻度とリスク
すべての患者さんに起きるわけではないのですが、一定の割合で口臭を悪化させる。利尿薬の使用者では高頻度に口渇が報告されて、カルシウム拮抗薬が原因である歯肉増殖も日常臨床でしばしば遭遇します。
東京大学医学部の老年歯科研究チームは、高齢患者では薬をたくさん飲んでいる人が多く、口腔乾燥と口臭リスクを上昇させているとまとめています。
見分けるためのサイン
薬の影響かも、と疑うべきサインとして、朝起きた時に口が非常に乾いている。夜中に何度も水を飲みに起きる。舌の表面が白くなりやすい。歯磨きをしてもにおいが取れない。薬を飲み始めてから口臭が気になるようになった。というような症状があげられます
対策と工夫
大切なのは薬をやめることではなく、血圧の薬を自分の判断で中止せず、服用を続けながら工夫することです。
口腔ケアとしては、舌の清掃を優しく行って、歯間の汚れをフロスや歯間ブラシで取り除きます。また、定期的に歯科を受診して歯周病をチェックしてもらうことも重要になります。
唾液を増やす工夫は、キシリトールガムを噛む、唾液腺マッサージをする、こまめに水分を補給することや、加湿器で乾燥を防ぎ、アルコールやカフェインの過剰摂取を避けることも大切なのです。
症状が強い場合は、主治医に相談して、薬の種類や量の調整を検討してもらうこともできるかもしれません。さらに、歯科領域では歯肉増殖の処置や専門的な口臭対策を行うことができるわけです。
まとめ
高血圧の薬を飲むと口臭が強くなるということですが、高血圧の薬が直接においを生むわけではありません。
ただ、利尿薬の影響による口腔乾燥、カルシウム拮抗薬の影響による歯肉増殖、ACE阻害薬やARBによる口渇や味覚変化といった副作用が重なることで、口臭が強くなりやすい環境をつくることがあります。国内外の有名大学の研究によってそのメカニズムは裏付けられており、臨床の現場でも日常的に遭遇する症状です。
重要なのは、薬をやめるのではなく、適切なケアと医師や歯科医のサポートによってにおいをコントロールすることだと思います。薬は命を守るものであり、正しい知識を持つことで不安や不快感を減らして、安心して治療を続けることができると考えています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
みなさんのお役に立てたのたのであれば、幸いです。
統括院長Dr.Ryo
コラムは「ウエスト歯科クリニック」と「玉川中央歯科クリニック」の両院に、それぞれ異なる内容で掲載しています。ぜひもう一方もご覧ください。
参考文献
- Harvard School of Dental Medicine. Studies on xerostomia and systemic medications.
- University of California, San Francisco. Research on drug induced dry mouth and quality of life.
- Tokyo Medical and Dental University. Reports on oral physiology and salivary flow in hypertensive patients.
- Stanford University Department of Pharmacology. Diuretics and salivary secretion analysis.
- King’s College London. ACE inhibitors, taste alteration and oralhealth outcomes.
- New York University College of Dentistry. Calcium channel blockers and gingival enlargement.
- Kyushu University Faculty of Dentistry. Clinical reports on drug relatedgingival overgrowth.
- University of Toronto Faculty of Medicine. Beta blockers and xerostomia prevalence.
- University of Tokyo, Department of Gerodontology. Polypharmacy, xerostomia and halitosis risk in elderly patients.


